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「現代能楽集Ⅹ『幸福論』~能「道成寺」「隅田川」より」

現代能楽集Ⅹ『幸福論』~能「道成寺」「隅田川」より

@シアタートラム

・2020年12月4日(金)19時開演

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 世田谷パブリックシアター芸術監督である野村萬斎さんが、企画・監修を務める「現代能楽集」シリーズ。今回はそのシリーズ第10作目の公演だそうです。

古典の能楽からインスピレーションを受け、劇作家・演出家の瀬戸山美咲さん、劇作家の長田郁恵さんが、現代社会の底深くの人間真理を描き出した現代演劇作品。

今回の演目は、「道成寺」と「隅田川」。現代に生きる人々の幸福とは何なのか、私たちに問いかける作品となっています。

(詳細は公式HPへ)

 

私にとって、初めてのストレートプレイの観劇。

 

瀬奈じゅんさん、相葉裕樹さん、清水くるみさん、というミュージカルの舞台ではおなじみの方々が3人(総出演者数6人中)も、ご出演されているということと、ミュージカルではないお芝居というものが、どんな感じのものなんだろう?ということに興味があって、観に行くことにしました。

 

舞台は二部構成。第一部が「道成寺」、第二部が「隅田川」。

一部と二部の間には、たった10分間の休憩。

ミュージカルの30分ほどの休憩に慣れていたので、この休憩の短さと、キャストの方々の切り替えの早さにはとても驚きました。

 

たった6名の役者さんだけで繰り広げられるお芝居。

一部と二部は全然違うお話なので、全員がそれぞれ別の役を2役演じられます(3役、4役の方もいらっしゃいました)。

 

シアタートラムは、とても小さな劇場で、200席くらいでしょうか?

舞台と客席の距離がとても近くて、役者さんたちは、マイクなしの肉声でのお芝居でした。

なので、こちらの客席側も、役者さんたちから常に見られている緊張感!息遣いや感情の変化なども全部舞台上に届いてしまう状態なので、ものすごい緊張感とともに、じっと席に座って固唾を飲んで舞台を見つめていました…

 

感想は…

壮絶なお芝居に、心が揺さぶられまくりました。

心の奥をぎゅっと掴まれた感じがして、なんだかうまく言葉にできない感情になりました。

 

道成寺」は、どうして人間はお互いにうまく愛を伝え合うことができず、結果的に相手を傷つけてしまったりするんだろう?とか、どうして人は、自分のしたいことを我慢しちゃったり、自分の本当の気持ちから目を背けてしまい、どんどん幸せじゃない方向へ向かっていってしまうんだろう?とか、幸せって本当に人それぞれなのに、それを他人が否定しちゃったりすることって、一体どういうことなんだろう?…とか、いろんな感情が交錯してしまいました。

 

隅田川」は、特に女性に刺さる演目だと思いました。登場人物たちに、幼女の頃の自分、思春期の少女の頃の自分、大人になる少し前の自分、責任ある働く大人の女性としての自分、老いてからの自分(または老いた自分の母親の姿)など、たくさんの自分を重ねて見てしまうのです。

切なくて切なくて、涙が止まりませんでした。

舞台上の全員を抱きしめてあげたい!背中をさすってあげながら「大丈夫だよ…!あなたは愛されているよ…心配しないで!」と言ってあげたい、って思いました。

 

最近、特に今年になってからでしょうか、幸せについて考えることが、とても多くなっていました。

自分にとっての幸せってなんだろう?ということもそうですし、他の人、周りの人にとっての、それぞれの幸せって何なのかな?と考えることも、とても多かったです。

そんな昨今の状況の中、このお芝居を観ることができたのは本当に幸せなことだったと思います。

舞台上の役者さんたち、そして客席の私たち、全員が確実に、幸せとは何かをともに追求した、かけがえのない時間だったな、と思うのです。

 

キャストの方について…(敬称略)

瀬奈じゅん

迫真の演技が素晴らしすぎました。彼女自身の実体験に重ねて考えてしまうと、第二部の役は本当に演じるのがツラかったのではないかと、思わずにはいられなかったのですが、そんなことは全然感じさせない素晴らしいお芝居で、素直に感情移入してしまい、気づいたら夏帆の気持ちになって、涙が溢れていました。

相葉裕樹

第一部の屈折した大学生、素晴らしかったです。屈折した心情の表現が見事すぎて、思わず駆け寄って、抱きしめて頭を撫でてあげたい!って思ってしまいました。狂気の表現も本当に素晴らしかったです。

★清水くるみ

第一部も、第二部も、感情がとても大変な役で、その演じわけが本当に素晴らしかったです。似ているようで、全然違う人物を、見事に表現されていて、最高でした。どちらの役にも、感情を持っていかれました。体当たりの演技、素晴らしいです!

明星真由美

第一部の幸せコンサルタントが最高でした。うわ、こういう人いるよね!ってリアルに思いました。第二部のヘルパーさんの役も、人間の嫌なところが滲み出ていて素晴らしかった。どちらも、人間って誰もがこういうところ、あるよね!と気付かされる素晴らしい演技でした。

高橋和也

彼をどこかで見たような気がしていたのですが、そう、元「男闘呼組」のメンバーの高橋さんでした!すっかり渋い大人の男の役者さんになられていて…びっくりでしたが、特に第一部の男の役がほんっとうに嫌なやつすぎて、最高でした!こういう男、ほんと大っ嫌い!!!って思っちゃったほど、素晴らしい演技で、魅了されました。

鷲尾真知子

テレビで何度か拝見したことのある女優さんでしたが、本当に演技が素晴らしすぎて、腰を抜かしそうになりました。第一部も第二部もリアルすぎる人物像で、ものすごく説得力がありました。特に第二部のおばあちゃんは、ボケてるの?わざとなの?ということを自然に演じられていて、本当にリアルで素晴らしかった。最後のシーンで、彩佳ちゃんを包み込んであげるところは、おばあちゃんの愛と優しさに、心からの涙が溢れてしまい、止まりませんでした。

 

本当に素晴らしい舞台でした。

しばらくは、幸せについて考える日々になりそうです。

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現代能楽集Ⅹ『幸福論』~能「道成寺」「隅田川」より

 

2020年11月29日ー12月20日 @シアタートラム

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